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2008年6月22日 (日)

虚夢(薬丸 岳)

 愛娘を奪い去った通り魔事件の犯人は「心神喪失」で罪に問われなかった。運命を大きく狂わされた夫婦はついに離婚するが、事件から4年後、元妻が街で偶然すれ違ったのは、忘れもしない「あの男」だった。

 不起訴処分となった通り魔犯と街で遭遇したといい、過去からの苦しみに苛まれて、不可解な言動を強めていく元妻。彼女が見たのは、本当にあいつなのだろか。元夫にできることは、ひとつしかなかった。



 img20080622.jpg  虚夢

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 『天使のナイフ』で少年犯罪を、『闇の底』で性犯罪を扱った著者。3作目となる本作は、“心神喪失”の通り魔犯に娘を殺された夫婦の憎しみを通して犯罪者の精神鑑定に対して問題提起している。

 心神喪失の青年が12人を殺傷する事件が白昼起きた。青年は精神鑑定で統合失調症と診断され、不起訴処分となる。この事件で幼い娘を失ったフリーライターの三上、精神病院から退院した犯罪者の青年と心を通わせるキャバクラ嬢、この事件が原因で精神を病み三上と離婚した佐和子の現夫。この3人が視点人物となり、それぞれの立場から描かれる構成が巧みで、ぐいぐい引き込まれる。

 人を殺めたり、ものを盗むといった犯罪行為を行えば、法律に従って罰を受けるのは当然である。だが、このような罰を受ける場合には、その人物が責任を持てることが前提とされる。然し、『心神喪失者の行為は、これを罰しない。心神耗弱者の行為は、その刑を減刑する』という刑法三十九条の存在で、人を殺傷した犯罪者が裁判にかけられることもなく、また刑務所に行くこともなく、措置入院だけで数年後には社会に戻ってこられるという現実。被害者や遺族が不起訴不当を申し立てたとしても、犯罪者が精神病であったならば検察側は起訴を見送るという。これでは、被害者や遺族は納得できるはずもない。まったく司法には絶望させられる。angry

 本作では、犯罪者が精神病を患っていたために不起訴という、理不尽な実情に屈しなければならなかった元夫婦の心情が痛いほど伝わってくる。つい最近、秋葉原で起こった無差別殺傷事件と重ねてしまうほど、深く考えさせられる作品で良かった。だが、ミステリーとしては残念ながら今ひとつ・・・、という感が否めなかった。weep



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