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2008年7月

2008年7月20日 (日)

林檎と蛇のゲーム/森川 楓子

 第6回 『このミステリーがすごいsign01』 大賞最終候補作品



 交通事故で母を亡くし、父と二人暮らしの珠恵。二週間の海外出張が決まった父が、留守中、珠恵の面倒をみてもらおうと連れ てきたのは、水野鈴奈という女性だった。珠恵は、「パパの恋人かもしれない」という勘繰りから、水野と打ち解けることができず、窮屈な毎日を過ごすことに なる。ところが、愛猫ミルクの失踪事件を発端として、珠恵は殺人事件に巻き込まれてしまう。さらには、父のベッドの下から一億円を発見。その隠し金を抱え、水野とともに逃亡しなければならない事態になり…。



 img20080720.jpg 林檎と蛇のゲーム

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  父の出張と怪しい幼なじみの登場に始まる展開は赤川二郎的というか、一見ドメスティックミステリーの典型。だが、ミルクの死、藤枝宅の災難、突然現れた札束と畳み掛けていくサスペンス演出は女性を読者対象としたコメディタッチのミステリー小説といったところか。珠恵の事件はその後、いったん康孝と水野の小学校時代に遡って謎の札束をめぐるとんでもない過去へと転じていく。意表をつくその展開もまたページを捲くりたくなってくる。

 犯罪に巻き込まれた中学生ヒロインとそのパートナーの逃亡劇を描いた内容は、タイトルに纏わる“ゲーム”に説得力がなくミステリー的にも難があるが、先の読めないストーリー、女性主体の活き活きした活劇演出がいい。珠恵と親友・ツルちゃんとの掛け合いや、小学校時代の康孝と水野の相棒ドラマ等、少年少女の瑞々しい交流劇にあるだろう。それに対して本書に出てくる大人たちはというと、今ひとつ成長しきれない屈折したキャラ達ばかり。やくざの井川や残酷な五条はその最たる例。著者の意図は珠恵たちや子ども時代の康孝・水野の姿を通して、そうした大人になりきれなかった少年少女の悲喜劇を逆照射することにあったのだろうか。



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2008年7月 6日 (日)

無言の旅人/仙川 環

 人は誰のために生き、誰のために死ぬのか―。交通事故で意識不明になった三島耕一の自宅から見つかった尊厳死の要望書。希 望を叶えるべきか否か、婚約者、家族、医者は激しく動揺する。しかし、苦渋の選択を強いられた周囲の思いもむなしく、耕一は突然息を引き取った。殺人か、 医療ミスか?原因究明に乗り出した婚約者が掴んだ不可解な事実とは。



 img20080706.jpg  無言の旅人

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 両親を亡くし、父が残した店を生き甲斐に一人で生きていこうと決めた主人公の大木公子。結婚なんてとうの昔に諦めていたのに、三島耕一と会うことができた。それまでの人生は、耕一と会うための助走期間のようなものだったのかもしれない。そして、これからの人生は、温かく楽しいものになるはずだった。なのに耕一は、交通事故で意識不明となり、尊厳死の要望書を残していた。公子には不幸が付きまとう運命なのだろうか。それとも、幸せに舞い上がっていた公子自身が不幸を引き寄せてしまったのだろうか。weep

 死をどう考えるかは人によって違う、家族の間で意見が割れ、いがみ合いが起こる可能性だってある。本作は、尊厳死をテーマに愛する人の意思を理解するということの困難さを丁寧に描いた作品である。

 ミステリー的要素は、あまり強調されていないが、重いテーマを扱った内容だけに読む者に訴え、また考えさせられる作品に仕上がっている。



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