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2008年12月

2008年12月31日 (水)

造花の蜜/連城 三紀彦

 造花の蜜はどんな妖しい香りを放つのだろうか…その二月末日に発生した誘拐事件で、香奈子が一番大きな恐怖に駆られたのは、それより数十分前、八王子に向かう車の中で事件を察知した瞬間でもなければ、二時間後犯人からの最初の連絡を家の電話で受けとった時でもなく、幼稚園の玄関前で担任の高橋がこう言いだした瞬間だった。高橋は開き直ったような落ち着いた声で、「だって、私、お母さんに…あなたにちゃんと圭太クン渡したじゃないですか」。それは、この誘拐事件のほんの序幕にすぎなかった―。



 img20081231.jpg  造花の蜜

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 二月末、香奈子のもとに幼稚園から電話がかかってきた。息子の圭太がハチに刺されて病院に運ばれた、という。改めて確認すると、そんな事実はなく、しかも迎えに来た母親によって帰宅したという。圭太は何者かに連れ去られたのだ。だが、この誘拐騒ぎは、事件のほんの序章にすぎなかった。shock

 母親と警察をおちょくる犯人の言動、渋谷の交差点における奇妙な身代金の受け渡し、そして意外な事実の暴露と、驚きのサスペンスが延々と続いていく。真犯人ばかりか、誰が被害者なのか定かではない。被害者と犯人、そして身代金の怪しい関係がくるくると入れ替わってしまうのだ。

 「愉快な誘拐」という、本気とシャレの境界があいまいな要素を過激に含んでおり、技巧を駆使した逆転劇の連続技を強引なほど徹底させているが、それだけで終わらない。どんでん返しの魔術師による傑作ミステリーである。



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このブログ、今回で暫らくの間、休むことにした。時がきたら復帰しようと思っている。その時まで… happy01

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2008年12月27日 (土)

十三回忌/小島 正樹

 ある素封家一族の、当主の妻が不審死を遂げたが、警察はこれを自殺として捜査を打ち切ってしまう。それが始まりだった。当主の妻の一周忌には「円錐形のモニュメントに真上から突き刺さった少女」、三回忌には「木に括りつけられさらに首を切られた少女」、七回忌には「唇だけ切り取られた少女」…と忌まわしい殺人が続いていく。そして十三回忌を迎える。厳戒態勢のなか、やはり事件は起こった。



 img20081227.jpg  十三回忌

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 静岡県内で多大な影響力を持つ宇津城家の屋敷で、七月十七日になると人が死ぬ。その日は当主の妻の命日で、妾腹の娘達が一人ずつ殺されていくのである。

 本書では、年忌法要が行われるたびに殺人事件が起こる展開で、事件が起きても解決できず、次の年忌法要まで持ち越されるという不気味さを生み、繰り返される殺人事件のトリックに関心が高まる。だが、登場人物の描写が弱く中心となる人物が定まらないのが残念である。中盤になり探偵役が登場し物語を引っ張っていくのかと思いきや、そうではなく視点が定まらないまま物語は進んでいく。探偵役に面白そうなキャラを登場させておきながら、立ってなかったのが残念である。weep そのまま探偵の視点でラストまで走っていれば、違った面白さが出ていたのではないだろうか…。



 

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2008年12月14日 (日)

誘拐/五十嵐 貴久

 韓国大統領来日―。歴史的な条約締結を控え、全警察力が大統領警護に集まる中、事件は起きた。少女誘拐―。全く痕跡を残さない犯人に、大混乱に陥る警視庁。謎が臆測を呼び、臆測は疑念に変わる。ベストセラー『交渉人』の興奮再び!稀代のエンターテイナーが贈る超驚の警察小説。



 img20081214.jpg  誘拐

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 これまで多くの『誘拐』ミステリーの傑作が書かれてきた。本書では、総理大臣の家族を巻き込む前代未聞の事件が展開していく。

 韓国大統領の来日を間近に控えた東京は、これまでにない厳戒態勢がしかれていた。歴史的な条約締結を控えていたためだ。そんなときに首相の孫娘が誘拐された。ひそかに調査を進めていく警察。しかし、まったく痕跡を残さない犯人たちの綿密な犯罪計画の前に翻弄されるばかりだった。やがて事件は解決へと向かっていったのだが…。

 かつて岡嶋二人の「あした天気にしておくれ」では、競馬のサラブレッドが誘拐されるという奇抜なアイディアが使われていたが、こちらは現首相の孫である中学生の女の子をさらうという大胆な犯罪である。しかも本書では、犯人側の視点から犯行のほとんどが語られていくものの、政府や警察側は事件の着地点と目的がいつまでも判然としないまま混乱するばかり。多くの「誘拐」ものの醍醐味は、誘拐された者の身の安全と身代金の受け渡しに関する犯人と警察の攻防だが、ここでは二重三重に意表をつかれてしまう。ok

 結末には、単なる誘拐事件を扱った警察小説にとどまらない驚きが待ち受けている。間違いなく今年読んだ作品の中で屈指の傑作ミステリーに挙げられる一作だ。



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2008年12月 7日 (日)

犯罪小説家/雫井 脩介

 新進作家、待居涼司の出世作『凍て鶴』に映画化の話が持ち上がった。監督に抜擢された人気脚本家の小野川充は『凍て鶴』に並々ならぬ興味を示し、この作品のヒロインには、かつて伝説的な自殺系サイト〔落花の会〕を運営していた木ノ瀬蓮美の影響が見られると、奇抜な持論を展開する。待居の戸惑いをよそに、さらに彼は、そのサイトに残された謎の解明が映画化のために必要だと言い、待居を自分のペースに引き込もうとしていく。そんな小野川に、待居は不気味さを感じ始め―。全篇に充ちた不穏な空気。好奇心と恐怖が交錯する傑作心理サスペンス。



 img20081207.jpg  犯罪小説家

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 自信作『凍て鶴』がヒットし映画化も決まった人気作家、待居涼司。脚本・監督・主演に今をときめく小野川充が起用され、作家生活はまさに順風だった。だが、『凍て鶴』のプロットに「落花の会」との共通点を見た小野川が、ヒロイン像を蓮美になぞらえて取材を始めたのだ。気乗りしない待居だったが、徐々にペースにはまり、蓮美の死の謎に入りこんでいく。

 本作、全体的に三人称で進んでいるのだが、全く以って誰が主人公なのか分からないし、いったい何を目指しているのかも分からない。事件が起こる訳でもなく、脚本家の交わす会話やネットの書き込みだけで話が進み、登場人物と全く関係のない過去の事件をがむしゃらに調べる意味が不明である。誰の感情も伝わってこないため感情移入しにくく、片寄った考えに固執し読む者を不愉快にさせる作品である。angry

 今年読んだ作品の中でワースト3に入る愚作だった。



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