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2012年5月 5日 (土)

ナミヤ雑貨店の奇蹟/東野 圭吾

 夢をとるか、愛をとるか。現実をとるか、理想をとるか。人情をとるか、道理をとるか。家族をとるか、将来をとるか。野望をとるか、幸せをとるか。
 あらゆる悩みの相談に乗る、不思議な雑貨店。しかしその正体は……。物語が完結するとき、人知を超えた真実が明らかになる。すべての人に捧げる、心ふるわす物語。

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 日本中がトイレットペーパーの買い占めに狂奔していたころ、東京近郊に浪矢雄治なる老人が営む「ナミヤ雑貨店」があった。その店は近所の子どもたちに「ナヤミ雑貨店」として親しまれ、いつしか恋や進路に迷う若者たちまでもが人生相談を持ち込むようになる。その際の決まり事がは二つ。相談者は夜、下ろしたシャッターの投函口から手紙を入れること。返信は店の裏手にある牛乳箱に入れておくので、各自で回収すること。
 物語は浪矢老人が亡くなって33年目の夜中、廃墟となっていた店に3人のチンピラたちが忍び込むシーンから始まる。
 彼らのもとに過去から届く手紙、案外真面目な彼らが律儀に送り出す返信。ちゃぶ台、おやじのステテコ姿、ビートルズのアルバム、ホンダのシビックやソニーのウォークマンなど細部の物尽くしも楽しい5話を重ね、今となっては古風にすらみえる昭和の若者たちの姿を浮かび上がらせる。ラスト、各話をつなぐ糸が明らかになる絵柄もお見事だ。
 このファンタジーの中で最も美しいのは、若き日の浪矢青年が未遂に終わった駆け落ち相手の女性に送った手紙だろう。相手の魂を鎮めるかのような思いやりと祈りの念に満ちた言葉。老人は相談者のその後が知りたいと、一夜だけ相談窓口を復活するよう遺言した。その際彼が確かめたかったのは、自分の影響力ではなく経年劣化しない言葉の生命力ではなかったか。

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