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2012年10月11日 (木)

死命/薬丸 岳

 榊信一は大学時代に同郷の恋人を絞め殺しかけ、自分の中に眠る、すべての女に向けられた殺人願望に気づく。ある日、自分が病に冒され余命僅かと知り、欲望に忠実に生きることを決意する。それは連続殺人の始まりだった。榊の元恋人だけが榊の過去の秘密を知るなか、事件を追う刑事、蒼井凌にも病が襲いかかり、死へのカウントダウンが鳴り響く。そして事件は予想もしない方向へ―衝撃の展開、感涙の結末。

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 「死命」には二つの意味がある。一つは「死ぬべきいのち」。もう一つは「死と生命、生きるか死ぬかの急所」。「死命を制する」といえば、他人の生死の急所をおさえ、その運命を自分の手に握ることだ。本書は二つの「死命」を重ね合わせに描き生きることの意味を問う、サスペンスミステリーの力作である。
 
榊 信一、33歳。デイトレーダー。株の売買で巨万の富を築き、東京湾岸の豪華マンションに独りで住む。澄乃というおさななじみの恋人がいるが、性欲が高じると、すべての女を殺したくなるという衝動を内に秘めている。末期がんで余命数ヶ月と診断された日から、自分の欲望に忠実に生きようと決意し、次々と殺人に手を染めていく。
 
蒼井 凌、53歳。警視庁捜査一課刑事。2年前に妻を亡くし、ダンサーの娘、高校生の息子と3人で暮らす。組織捜査になじまない一匹狼だが、独特の勘の持ち主で、事件となれば寝食を忘れる。胃がんの再発で余命数ヶ月と知った日から、連続女性殺害事件の捜査に最後の執念を燃やす。
 
事件は、この2人に澄乃を加えた三つの視点から交互に描かれる。物語の進展につれて、榊の殺人衝動のもとになった少年時代の事件が浮かび上がる。
 
だから読者は、異常心理による快楽殺人を扱った犯罪小説、はみだし刑事の執念の捜査を描いた警察小説、禁断の恋のゆくえを追う恋愛小説。連続殺人の動機をめぐる推理小説の四つを同時進行で味わうことができる。
 
しかし、この作品の最大の読みどころは、病魔に死命を制された2人の男が、残された生命をかけて文字通りの死闘を展開する、その息づまるサスペンスにある。世にミステリー多しといえども、これほどの迫力と臨場感をもって「死ぬべきいのち」の急所を描いた作品は珍しい。

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