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2013年6月15日 (土)

夢幻花/東野 圭吾

 退職し、花を愛でながら悠々自適な生活を送っていた老人・秋山周治が殺された。遺体の第一発見者は孫娘の梨乃。梨乃は祖父の死後、庭から消えた黄色い花のことが気にかかり、花の写真をブログにアップする。それを見て、身分を隠して近づいてきたのが、警察庁に勤務するエリート・蒲生要介。ひょんなことから、その弟・蒼太と知り合いになった梨乃は、蒼太とともに、事件の真相と黄色い花の謎解明に向けて動き出す。西荻窪署の刑事・早瀬らも事件の謎を追うが、そこには別の思いも秘められていた。

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 現代ものの読者の多くは、あまり複雑でなく、先行きの展開に予想がつく物語を好む。と著者が判断したのかどうか、連載は黄色いアサガオを咲かせるよう、怪しげな研究所に雇われた主人公が何者かに追われるサスペンス小説となっていたが、東野圭吾は徹底的に手を入れたいと、出版を凍結させた。「黄色いアサガオ」というテーマを扱うにはサスペンス小説よりも、謎を追求する形式の本格推理のほうがふさわしかったと、直観的に見抜いたからではないか。
 刊行された本書は、連載版とはほとんど同題異作である。カギを握る女性・伊庭孝美、市井のアサガオ専門家である歯科医を除いて、登場人物もまったく入れ替えられた。
 原型の主人公と下の名前が同じ人物はすぐ死体となる。被害者の孫娘・梨乃は、ある事情で水泳のスター選手の座を去った。彼女が偶然出会ったのは、福島の原発事故以来、進路に悲観的になっている原子力工学の大学院生で、ともに事件を追う成り行きに。また担当の一刑事は、かつて被害者に救われた自分の息子からの信頼を回復したくて、単独捜査に励む。
 
複雑な謎解きに加え、それぞれに夢破れた3人が真相の追求を通じて、希望を取り戻してゆく過程が有機的に絡んで、深みのある物語となった。人物のつながりに偶然が重なる都合の良さには目をつぶろう。

Stars45

 

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