道尾 秀介

2011年6月18日 (土)

カササギたちの四季/道尾 秀介

 開店して2年。店員は2人。「リサイクルショップ・カササギ」は、赤字経営を2年継続中の、ちいさな店だ。店長の華沙々木は、謎めいた事件があると、商売そっちのけで首を突っ込みたがるし、副店長の日暮は、売り物にならないようなガラクタを高く買い取らされてばかり。でも、しょっちゅう入り浸っている中学生の菜美は、居心地がいいのか、なかなか帰ろうとしない―。

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 菜美が笑えるようにと日暮はいろいろと手を尽くすのだが、どうやらそれはお見通しのようで・・・騙されることの優しさを感じながら終わる物語は、静だが心に灯りが灯るように優しくユラユラと揺れているように感じる。
 小さな古道具屋のまわりで起きる、謎めいた事件を描く、ちょっと甘口な青春ミステリー。

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2010年1月13日 (水)

球体の蛇/道尾 秀介

 1992年秋。17歳だった私・友彦は両親の離婚により、隣の橋塚家に居候していた。主人の乙太郎さんと娘のナオ。奥さんと姉娘サヨは7年前、キャンプ場の火事が原因で亡くなっていた。どこか冷たくて強いサヨに私は小さい頃から憧れていた。そして、彼女が死んだ本当の理由も、誰にも言えずに胸に仕舞い込んだままでいる。
 乙太郎さんの手伝いとして白蟻駆除に行った屋敷で、私は死んだサヨによく似た女性に出会う。彼女に強く惹かれた私は、夜ごとその屋敷の床下に潜り込み、老主人と彼女の情事を盗み聞きするようになる。しかしある晩、思わぬ事態が私を待ち受けていた……。
 青春のきらめきと痛みとを静かにうたい上げる、道尾秀介の新境地。あの頃、幼なじみの死の秘密を抱えた17歳の私は、ある女性に夢中だった……。狡い嘘、幼い偽善、決して取り返すことのできないあやまち。矛盾と葛藤を抱えて生きる人間の悔恨と痛みを描く、人生の真実の物語。

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 本書、これから葬儀に向かう主人公が葬祭場に行き着くまでの間に過去の出来事を振り返るメモワール作品である。現在30代前半と思われる主人公の一人称「私」が思い出を語る行く展開となっている。
 17歳の友彦は、居候する橋塚家の死んだ娘、サヨに似た女性・智子に出会った。狂おしく恋焦がれるあまり、彼女の情事の盗み聞きにおぼれてしまう……過去の事件やゆがんだ家族を巡り、友彦の魂がさまよう物語の中核は「ウソ」。ウソをのみ込み生きる人生の不可解さは、透明な球体に雪景色のジオラマを封じ込めたおもちゃ、スノードームに象徴される。
 向日葵(ひまわり)の咲かない夏』始め大胆な仕掛けを配した作品で評価されてきた著者であるが、今回はそれを避けたものとなっている。ミステリーとして読むとコケる作品である。

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2009年8月30日 (日)

龍神の雨/道尾 秀介

 人は、やむにやまれぬ犯罪に対し、どこまで償いを負わねばならないのだろう。そして今、未曾有の台風が二組の家族を襲う。最注目の新鋭が描く、慟哭と贖罪の最新長編。



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 「だまされまいと心して読んでいるのに、またしてもだまされた」

 今もっとも注目されている若手ミステリー作家、道尾秀介の作品を読み続けている人なら誰しも思っていることだろう。

 作者は一作ごとに傾向も味わいも違う作品を書き続けながら、読者を跳び上がらせる大胆極まりない仕掛けを常に用意している。そう、道尾秀介はもっとも油断のならない作家である。

 本書は肉親と死に別れた二組のきょうだいが登場する犯罪小説風のサスペンスである。

 19歳になる添木田蓮は実母の急死後、暴力をふるう継父を疎ましく思いはじめる。その感情は、中学3年生の妹の楓に対し、継父が性的な劣情を向けていると思い込んだ瞬間から、殺意へと変わっていく。

 一方、中学生の辰也と小学校の圭介の兄弟は、実母の死後に再婚した父親を病気で失い、継母と暮らしていた。達也は継母の存在を認めず非行に走り、圭介は2年前に実母が死んだ原因が自分にあるとひそかに悩み続けていた。

 台風による大雨の日、蓮は継父を事故死に見せかけて殺す仕掛けをして外出する。帰宅した蓮は、継父の死体を発見するが、妹の楓から自分が継父を殺したと告白される。二人は死体を遺棄しようとするが、殺人の証拠となるスカーフが、辰也の手に渡ってしまう。

 物事も人間のありようも、一面からでは判断できない。二組のきょうだいの視点人物である蓮と圭介。彼らが“見た”、息づまるような現実を追っていくうち、読者は作者が仕掛けた周到な罠にからめ捕らわれていく。



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2008年9月 7日 (日)

カラスの親指/道尾 秀介

 詐欺”を生業としている、したたかな中年二人組。ある日突然、彼らの生活に一人の少女が舞い込んだ。戸惑う二人。やがて 同居人はさらに増え、「他人同士」の奇妙な共同生活が始まった。失くしてしまったものを取り戻すため、そして自らの過去と訣別するため、彼らが企てた大計画とは…。



 img20080907.jpg  カラスの親指

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 詐欺罪とは、人を欺いて財物を交付させたり、財産上不法の利益を得ること、または他人にこれを得させることにより成立する犯罪のこと。メディアなどであらゆる詐欺の手口が紹介され、対策等を講じられているにも関わらず、未だに騙される人が後を経たない。いい例が“オレオレ詐欺”である。現に今でも被害者が出ているらしい。騙す方が悪いのか?それとも騙される方が悪いのだろうか?

 本作、“詐欺”を生活の糧としている二人の中年男性が、過去に犯した罪への報復に脅えながらも、生きるために詐欺行為を繰り返していく。そんな二人の共同生活に、突然十八歳の少女が舞い込んでくる。家族を失った二人が再び“家族”を知り、ついに過去と決別すべく奔走する!裏社会を舞台に繰り広げられる頭脳戦。心理的に騙されやすい詐欺の手口を取り入れ、“家族”をテーマにコミカルで楽しく、それでいてあらゆる所に伏線が散りばめられた一気読み間違いなしの作品である。

 そして、何より騙されていたのは、他ならぬ読者だろう。“サプライズマジシャン”の異名をとる道尾秀介ならではの出来だsign01

 

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2008年4月12日 (土)

ラットマン(道尾 秀介)

 結成14年のアマチュアロックバンドが練習中のスタジオで遭遇した不可解な事件。浮かび上がるメンバーの過去と現在、そして未来。亡くすということ。失うということ。胸に迫る鋭利なロマンティシズム。注目の俊英・道尾秀介の、鮮烈なるマスターピース。



 img20080412.jpg  ラットマン

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 『ラットマン』と呼ばれる素朴な線描画がある。動物たちの絵の中に置かれていると、それはラットに見える。人物画の中に置かれると、男の顔に見える。同じ絵なのに何故か全く別のものに見えてしまう。

 見る、聞くといった人間の知覚は、その前後に受けた刺激によって左右されるらしく、これを心理学などでは『文脈効果』というらしい。ミステリーのトリックやギミックの多くは、この文脈効果を応用したもの。振り込め詐欺の手口も、似たようなものだということだ。

 本書は、この文脈効果を最大限に利用してラットを人間に見せかけ、枯れススキを幽霊と信じ込ませる超絶技巧ミステリーの逸品。

 アマチュアロックバンドが、貸しスタジオで練習中に不可解な事件に遭遇する。かつてメンバーの一員だった“ひかり”が、密室状態の倉庫で重さ百キロのアンプの下敷きになって死んでいたのである。“姫川亮”は、幼児期に不幸な事件で姉を失い、今もそのトラウマを抱えて生きている。死んだ“ひかり”と付き合っていたが、最近はその妹・に惹かれるようになっていた。

 現場の状況から、容疑者は当時スタジオに居た4人のメンバーに限られる。4人は互いに疑心にかられ、同じ絵にそれぞれ別のイメージをふくらませ、新しい『ラットマン』現象を作り出していくのである。そして、推理の行方は二転三転し、容易に予断を許さない。



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2007年4月 1日 (日)

片眼の猿(道尾 秀介)

 俺は私立探偵。ちょっとした特技のため、この業界では有名人だ。その秘密は追々分ってくるだろうが、「音」note に関することだ、とだけ言っておこう。

 今はある産業スパイについての仕事をしている。地味だが報酬が破格なのだ。楽勝な仕事だったはずが…。気づけば俺は、とんでもない現場を「目撃」してしまっていた。



 img20070401.jpg  片眼の猿

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 本書、盗聴専門の探偵事務所を経営する主人公・三梨幸一郎の一人称で書かれている作品です。ある楽器会社からの依頼を受け、調査して行くうちに殺人事件が起こり巻き込まれてしまう。事件解決に向け事務所の在るアパートの住人達が織り成す数々の人間模様とサプライズ。

 ストーリーや設定はミステリーというより、ハードボイルド調にユーモアを取り入れた軽やかな作りになって、事件を解決するための謎解きがなく少し残念でした。weep しかし、ラストで明かされる秘密……騙されていましたぁ~shock、至る所に伏線が張られていたのに気が付かなかったです。というより先入観の裏をつかれたと云った方が良いのかもしれない。また、著者が伝えたかったメッセージも構築されていて、流石sign01サプライズマジシャン”と呼ばれるだけのことはあるなぁ、と思わせる作品でした。



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