湊 かなえ

2012年3月14日 (水)

花の鎖/湊 かなえ

 梨花は、悩んでいた。両親を亡くし、祖母もがんで入院。追い討ちをかけるように、講師をしていた英会話スクールが倒産。お金がない、どうしよう。
 美雪は、満ち足りていた。伯父のすすめで見合いをした相手が、ずっと憧れていた営業職の和弥だった。幸せな結婚。あの人に尽くしたい。
 紗月は、戸惑っていた。水彩画教室の講師をしつつ、和菓子屋のバイトをする毎日。そんなとき、届いた大学時代の友人からの手紙。忘れていた心の傷が、うずきはじめた。
 花の記憶が三人の女性をつないでいく。3人の視点で構成された傑作ミステリー。

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2010年4月 5日 (月)

Nのために/湊 かなえ

 大学一年生の秋、杉下希美は運命的な出会いをする。台風による床上浸水によって、同じアパートの安藤望・西崎真人と親しくなったのだ。努力家の安藤と、小説家志望の西崎。それぞれに屈折とトラウマ、そして夢を抱く三人はやがてある計画に手を染めた。
 すべては「N」のために──。
 タワーマンションで起きた悲劇的な殺人事件。そして、その真実をモノローグ形式で抒情的に解き明かす、著者渾身の連作長編。『告白』『少女』『贖罪』に続く、新たなるステージ。

N

 東京の超高層マンションの一室で、エリート商社マンと若く美しい妻が死んだ。2人と接点をもつ4人の若者たちの独白を通じて、複雑な事件の背景が少しずつ、明らかになる。
 本作、最初の3行に事件の答えは出てしまっているようなもの。ではそこにたどりつくにはどんなルートがあるのか?
 家庭崩壊など事件へとつながっていく彼らのゆがんだ過去は、辛く、切ない。くっきりと浮かびあがる人物像に、いつしか同情とも親近感ともつかない思いを抱く。
 4人の若者のうち、3人までが「島」の出身者として描かれる。島を出れば、遠くに行けば、どうにかなるんじゃないか。「島から出なければ何も始まらない」と東京を目指す。島は物語のキーワードでもある。

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2009年7月26日 (日)

贖罪/湊 かなえ

 取り柄と言えるのはきれいな空気、夕方六時には「グリーンスリーブス」のメロディ。そんな穏やかな田舎町で起きた、惨たらしい美少女殺害事件。犯人と目される男の顔をどうしても思い出せない四人の少女たちに投げつけられた激情の言葉が、彼女たちの運命を大きく狂わせることになる―これで約束は、果たせたことになるのでしょうか?衝撃のベストセラー『告白』の著者が、悲劇の連鎖の中で「罪」と「贖罪」の意味を問う、迫真の連作ミステリ。本屋大賞受賞後第一作。



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 本書はもっか大活躍中の“湊 かなえ”の長編第3作に当たる。今回もまた悲惨な事件を通して人間の黒い心理をえぐり出す連作形式のノワール小説に仕上がっている。

 舞台は「日本一きれいな場所」といわれる田舎町。小学校のグラウンドで4人の友達と遊んでいた小学4年の美少女が作業員とおぼしき男に連れ去られて殺される事件が起きる。被害者の母親は、犯人を目撃しながらもあやふやな記憶しか残っていないという4人の少女を糾弾、それがトラウマのなった彼女たちは大人になってもそれを引きずることに・・・。

 かくて各章ではその後の少女たちの軌跡と現状が「告白」と同様の告白体で描かれていく。語り口や語り手が章ごとに変わる構成も「告白」の延長上にあるが、事件の被害者/加害者の対立劇ではなく、一種の逆恨み的な復讐状況を作り出すうまさ、そして各章ごとにヒロインを新たな事件に直面させる入れ子作りのうまさは、すでに手だれのものといっていい。

 冒頭の1篇「フランス人形」の紗英をはじめ、皆が皆、ながきにわたってトラウマにさいなまれているところへもってきて、さらに身近な人間に裏切られることになる。彼女たちを踏んだりけったりの過酷な状況に陥れていく著者の筆さばきはいかにもサディスティックというか、意地の悪い仕打ちのようにも思われようが、むろん著者はそこから罪を贖うことの本来の意味を問いかけているわけだ。

 一見殺伐とした著者の作風がもてはやされるのもそうした人間の闇、病理の摘出が心の浄化に結びつくからだろう。それこそまさにノワール小説の本領というべきかもしれない。“湊”小説の快進撃はまだ当分続きそうだ。



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2008年10月19日 (日)

告白/湊 かなえ

 我が子を校内で亡くした女性教師が、終業式のHRで犯人である少年を指し示す。ひとつの事件をモノローグ形式で「級友」「犯人」「犯人の家族」から、それぞれ語らせ真相に迫る。選考委員全員を唸らせた新人離れした圧倒的な筆力と、伏線が鏤められた緻密な構成力は、デビュー作とは思えぬ完成度である。

第29回小説推理新人賞受賞作「聖職者」を第一章とし、その後、第六章まで加筆して長編小説として刊行。



 img20081019.jpg  告白

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 三学期の終業式のホームルームからから始まるこの物語。担任の女性教師が、教え子である中学一年生に向かい、ある事情で婚約者と別れ未婚の母となった自分の過去や、教師と生徒の信頼関係など一見脈絡のない話を淡々と語り始める。

 やがて放課後に学校のプールで発見された幼い我が娘の死は、事故ではなくクラスの生徒二人による殺人だったという告発に至る。さらに二人の処罰を法の手に委ねる代わりに、犯した罪の重さをかみ締めながら生きざるを得ない“復讐”をすでに行使した、という爆弾発言へと続いていく。shock

 今にもほとばしりそうな恨みつらみの感情をぐっと抑えた、女性教師の冷静な語り口に圧倒される。まるで切れ味の鋭い短編のような見事な冒頭部。それもそのはず、この第一章はもともと第29回小説推理新人賞を受賞した短編小説だった。

 第二章以降は、家族や友人、そして犯人など、事件の関係者による視点から物語が語られていく。一教師の私的な“復讐”が水面に広がる波紋のように多くの関係者を巻き込み、同時に彼らの姿をも浮き彫りにしていく。

 自分の行動で犯人の少年を精神的に追い詰めていることに気づきもしない新担任の熱血教師、現実を直視し様としない学校クレーマーの母親、劣等感からリーダーに依存していく共犯の少年、そして己の幼稚さに気づかないまま他人を見下す歪んだ自我が肥大した主犯格の少年、といった具合に…。

 語り手が次々に変わっていく連鎖ミステリーの手法を用いた効果によって、殺人に至るまでの経緯や、告発後の影響など、事件の背景が多角的かつ重層的に描かれていく。一短編が予測不可能なほど意外な展開を見せる長編へと発展、変貌を遂げたのである。



 

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